第37話 エイリアンとの遭遇
立山は唐突に姿を消してしまった。
僕は小さく舌打ちしたが、すぐに気を取り直した。
平石にも、さほど動揺は見えなかった。
〈出口が近い。あいつのことはもう忘れよう〉
そう手話で伝え、僕たちは脱出を急いだ。
まずは階段を探した。
いくつかのドアを見つけ、片っ端からノブを回してみたが、どれも施錠されている。
平石はリュックを下ろすと、中からレジスタンスのアジトから持ち出したプラスチック爆弾を取り出した。
〈これで開ける〉
ドアノブの下に爆弾をセットし、僕たちは一旦階下へ降りた。
平石がリモコンを取り出す。
僕は補聴器を外した。念のため両耳に指まで突っ込んだ。
平石がスイッチを押した。
爆発とともに激しい振動が伝わってきた。
階段を駆け上がる。
ドアは吹き飛び、その向こうから煙が流れ出していた。
僕たちは3Dマシンガンを構え、オフィスへ突入した。
中にいたスタッフたちは、爆発に驚き、床や壁際に伏せていた。
その中から数人が起き上がる。
制服姿だ。
自衛官が三人。
僕と平石は迷わずトリガーを引いた。
青白い光が走り、三人が次々と床に崩れ落ちた。
残ったスタッフたちは呆然としていたが、やがて我に返り、我先にオフィスから逃げ出していった。
僕たちは混乱の中を進んだ。
隣のオフィスにも騒ぎは伝わっていた。
女性スタッフがデスクから立ち上がり、廊下へ駆け出していく。それを見て、他の社員たちも一斉に逃げ始めた。
僕は両開きのドアを蹴り開けた。
「床に伏せて!」
大声で叫びながら、制服姿の人間に狙いを定めた。
女性スタッフが床に伏せる。
他の社員たちもデスクの陰に身を隠した。
ここには感染した自衛官が二人いた。
僕と平石は3Dマシンガンで二人を倒した。
そのままオフィスの奥へ進み、他に感染者がいないか確認する。
もう生身の人間しか残っていないようだった。
〈ここには、もういないらしい〉
平石が言った。
僕は頷いた。
廊下へ出た。
そこでは、スーツ姿の男たちが険しい顔で何やら話し合っていた。
僕は平石に尋ねた。
〈どうする?〉
平石は周囲を見回した。
〈ここは一体どこなんだ?〉
〈ビルの中だよ〉
〈知っている。ビルのどこなんだ?〉
平石は苛立っていた。
僕は首を傾げた。
敵のアジトへの侵入には成功した。
しかし、次にどこへ行けばいいのか、さっぱり分からない。
とりあえず僕たちは、スーツ姿の男たちの横を通り抜けた。
彼らは僕たちが手にしている武器に気づくと、慌てて道を開け、そのまま逃げていった。
入れ替わるように、コーヒーカップを持った女性が廊下に現れた。
「失礼」
僕は彼女を呼び止めた。
「最上階への行き方を知ってるかい?」
女性は僕の手にある3Dマシンガンを見て、一瞬身を固くした。
その時、館内放送が流れ始めた。
僕には何を言っているのか、よく聞き取れない。
「すまんが、二人とも耳が悪いんだ。今、何て言ってる?」
僕は天井のスピーカーを指差した。
「侵入者がいるって……」
「ああ、そうかい。ご親切にありがとう。ところで最上階へは?」
女性は戸惑いながら廊下の先を指差した。
「ここをまっすぐ行って、突き当たりの非常階段を上れば行けます」
「ありがとう」
女性を解放し、僕たちは廊下を急いだ。
〈階段か。エレベーターじゃないのか。エレベーターを探そうぜ〉
平石が不満げに手話した。
〈いや、追手がこっちに向かっているらしい。あまり時間がないぞ〉
平石が立ち止まった。
〈何だ。聞こえていたのか〉
〈聞こえてないんだが、なぜか分かってしまった〉
〈それは聴力っていうより、超能力っていうんだよ〉
僕たちは非常階段へ急いだ。
階段を駆け上がる。
最上部まで来ると、行き止まりに一枚のドアがあった。
今度は鍵がかかっていない。
僕は平石を見た。
平石が頷く。
僕はゆっくりとドアを開けた。
そこには、壁一面を巨大なスクリーンで覆われた、広大なフロアがあった。
スクリーンには、街のあちこちの映像が映し出されている。
道路。
駅。
住宅街。
逃げ惑う人々。
警官。
自衛官。
そして、街の上空を飛び交うドローンからの映像。
僕と平石は、しばらくその場に立ち尽くした。
そして同時に気づいた。
フロアには誰かいる。
人間ではなかった。
もちろん、ゾンビでもない。
異様に大きく尖った頭部。
それとは不釣り合いな、細く小柄な身体。
長い手足。
スクリーンから放たれる光を受けて、五つの奇妙な影が床に伸びていた。
僕は思わず平石を見た。
平石も僕を見た。
ああ。
あのお方だ。
面接室のタッチパネルに映っていた、あのお方。思ったよりちっこい。
僕たちは、とうとう本物を見つけてしまった。
エイリアンは五体いた。
五体とも巨大なスクリーンに向かい、何かの操作を続けている。
そして――
まだ僕たちには気づいていなかった。
つづく
